10/17の不安:コロナ・ブックス『作家のおやつ』平凡社
「作家のおやつ」Twitterで見かけて、雨の中丸善まで歩いて買ってきました。
以前紹介した「作家の猫」と同じ作家シリーズになります。
「作家の猫」同様に買ってよかったです。
30人ほどの作家の好んだお菓子やそれにまつわるエピソードが掲載されており、それぞれの人となりを知ることができます。
何を好んで食べるかというところははやり十人十色ですので、その作家さんのことを知らなくても十分楽しめました。
写真も豊富でぱらぱら~っとめくっているだけでもなんだか幸せな気分になりました。
紹介されている作家さんは有名どころだと以下の通りです。
作家さんが生きた時代が時代なので紹介されているお菓子は和菓子が多いのですが、今でもお店が残っているのがほとんどで驚かされました(本書末尾に菓子店一覧あります)。
また写真から当時の雰囲気も伝わってきましたし、「日本の文化」みたいなところにも少しだけ触れられたように思います。
以下に私が気になった箇所をつらつらと書いておきます。
目次の次のページから三島邸の写真がどーんと出てきます。
なんだか落ち着かなそうな部屋だな。。。と感じました。
部屋の雰囲気は前から知っていましたが、やはりちょっとうーん、という感じです。
澁澤龍彦部屋の写真も出てくるのですが、澁澤龍彦の方がおしゃれな印象を受けました。
お菓子の方はと言うと、煎餅やカボチャの種等、案外質素なものを口にしていたようです。(執筆中はウィスキーボンボンを食べていたらしい。)
原稿を書くという作業のさまたげにならない”無名のおやつ”ばかりであった。お茶は延命茶のティバッグ箱が机の上に置いてあった。自分で魔法瓶からお茶を注いでいるらしかった。
ただ延命茶という名称が、三島には似合わないという気がした。
お菓子が質素な感じで安心しました。ここで山の上ホテルの話が出てきたら、東京に住んでいるときに行けば良かったと後悔するところでした。あぶない。
延命茶の件りはくすっときますね。三島には夭折願望があったと思いますし、老化することを醜いことと考えていた節がありますので、延命茶を飲んでも「延命」なんて言葉は三島の頭にはなかったと思います。
②手塚治虫
手塚治虫はチョコレートが好きだったんですね。
「大阪を舞台に戦後の混乱を生き抜く人々を描いた自伝マンガ『どついたれ』」の「空襲で焼けた菓子工場で主人公(手塚治虫)」が「チョコレートを見つけ興奮している」ひとコマが掲載されています。
戦争マンガとしては水木しげるの「総員玉砕せよ!」は読んだことあるのですが、こちらもちょっと読んでみたくなりました。
③檀一雄
檀一雄の長男檀太郎さんのコラムが掲載されています。
檀一雄の父親としての姿が描かれているのですが、こういう幼少期、少年時代の視点で描かれたものを読むとうるっと来ちゃいますね(中勘助の「銀の匙」的な?)。
時の流れを感じるというか。
そして檀一雄が坂口安吾と同じ時代を生きた人であることも記載された内容で知りました。
④市川崑
『ビルマの竪琴』の映画監督ですね。三島由紀夫の金閣寺を映画化した『炎上』の監督でもあります。
お菓子関係ないですが、ヘビースモーカーであったことにまつわるエピソードが面白かったです。
それに「おしゃれで定評だった」とのことです。確かに写真を見ると小綺麗でダンディ?な姿が写っています。こういうおやじになりたいなぁ。無理だけど。
これまで名前しか知らなかったので、「へぇ~」という感じでした。
⑤坂口安吾
こちらもコラムを面白く読みました。かなり気前がいい性格だったみたいですね。
コラムに出てきたオジヤは個人的には全くおいしそうには思えませんでした。。。
最後はオジヤで、これは安吾が「わが工夫せるオジヤ」と題して書いている。
まず、鶏骨、鶏肉、ジャガイモ、人参、キャベツ、豆類を入れて、野菜の原形が、とけてなくなる程度のスープストックを作る。三日以上似る。三日以下では安吾流にならない。スープを濁らせてどんどん野菜をとかし、ここへ御飯を入れて塩と胡椒と醤油で味をつけ、三十分煮て御飯がとろけるまで柔らかくする。さらに玉子をとじこんで蓋をして蒸らす。デザートはバナナ一本。
「工夫せる」とか我流でこだわった料理ってちょっとこわい。一般的に認められているレシピで作った方がうまいんじゃないかと保守的な私は思います。
あとバナナはデザートって感覚あまりないですよね。
「バナナは手に入れにくい高級品で値段が高かった」とのことで時代を感じました。
⑥植草甚一
名前も聞いたことがないですが(すみません)、普通に紹介されていたお菓子が気になりました。
それは壽堂の三色団子と黄金芋です。
こんなきれいな三色団子見たことない。。。黄金芋も焼き芋そっくりの和菓子ということで気になりました。
まだお店ありました。
こちらも「アンヂェラスの梅ダッチ」なるものが気になりました。
梅酒を添えて出される水出しアイスコーヒー。氷入りグラスにコーヒーを注ぎ、半分程度飲んだ後に、梅酒を加えて飲む。「変わっていて二度楽しめる」と池波も好んだ。
とのことです。
梅ダッチの写真が掲載されているのですが、氷入りのグラスに梅酒の梅が添えてあってなんとも涼しげな雰囲気です。
残業ながら浅草の喫茶店「アンヂェラス」は昨年に閉店してしまったようです。
⑧井伏鱒二
「甘いものは大嫌いだった」という井伏鱒二の姿を映した写真が一枚だけ掲載されています。
お菓子嫌いなのになんで?笑と思ったのですが、「カメラがとらえた文士の日常」という本書の企画の一部でした。
⑨團伊玖磨
どこかで見たことある名前だと思ったら、あの有名な童謡「ぞうさん」の作曲者でした。それに血盟団事件で暗殺された團琢磨の孫ということです。すごい家系。
お菓子についていうと仙台駄菓子である「石橋屋のゼリー菓子」や金平糖などのエキゾチックなものを好んでいたようです。
仙台駄菓子は江戸時代から作られているようですが、こんなハイカラなものが江戸時代からあったのかな??と興味を持ちました(恐らく仙台駄菓子自体は江戸時代からあったということですね)。
⑩森茉莉
はじめて名前を聞いたのですが、文豪森鴎外の長女とのことです。すごい。
「有平糖(あるへいとう)」なる飴細工のような「南蛮菓子が発展した工芸菓子」の写真が掲載されているのですが、これがなんとも言えずきれいです。
失われた時を求めて、過去の自分の掌でさわり、たしかめ、ふたたび現在の中に再現しようとした、素晴らしいフランスの作家の、マルセル・プルウストが愛した、彼が幼児に母親や叔母の家で味わったプティット・マドゥレエヌ。有平糖は私のプティット・マドゥレエヌである。
マルセル・プルウストのマドレーヌの話って有名なんですね。
以前記事で紹介しましたが、「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」について美学専門の大学教授が論じるときに、マルセル・プルウストのマドレーヌの話を引用していました。
この「ドーナツの穴だけ残して食べる方法」が想像の斜め上だったのですが、上記の森茉莉の文章を読んだときにこれを思い出して一人でふふってなりました。
気になる方以下の記事も読んでみて下さい。
読みながらゆったりとした時間を過ごすことができました。
今日は以上!